介護保険の基礎知識 介護保険の基礎知識

さまざまな介護サービスを、1~3割の自己負担で受ける
ことができるのが「介護保険」です。

介護保険法改正、2021年と2024年の内容は?

2000年に施行された介護保険法。高齢者を取り巻く状況や社会のニーズに合わせて、3年に一度、法改正が実施されています。これまでの改正では、介護保険サービスの利用者負担額の引き上げなどが実施された一方で、サービスの拡充や支援体制の強化がなされたことも事実です。

本記事では、介護保険法の仕組みと2021年度の改正を振り返り、2024年に控えた次回の介護保険法改正のポイントについて詳しく解説します。

目次

介護保険法とは

介護保険法は、1997年12月に国会で成立し、2000年4月に施行されました。
まずは、介護保険法創設の背景・経緯や介護保険制度の仕組みなどについて見ていきましょう。

介護保険法と介護保険制度の仕組み

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介護保険法は、高齢者の介護を社会全体で支えることを目的に施行されました。現在では、介護保険を利用する方(要介護・要支援認定者数)は約691.4万人(2022年5月末時点)となり、介護を必要とする高齢者を支える制度として定着しています。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省『介護保険事業状況報告の概要(令和4年5月暫定版)』

介護保険法に基づく介護保険制度を保険者として運営するのは、全国の自治体(市町村と特別区)になります。65歳以上の第1号被保険者が介護や支援が必要となった時に介護サービスを利用することができます。

また、40歳以上の第2号被保険者では、若年性認知症(初老期の認知症)や脳血管疾患など老化が原因とされる特定疾病(介護保険法施行令第2条に列記されている16種類の病気)により、要介護・要支援と認定された場合にのみ介護サービスが利用できます。

介護保険のサービスを利用するには1〜3割の自己負担が必要です。残りの7〜9割は公費と介護保険料から構成される介護保険の財源から賄われています。

介護保険法ができた背景と経緯

介護保険法が制定された背景には、以下のような理由で従来の「老人福祉法」や「老人保健法」によるサポートで十分に対応しきれなくなったことがあります。

・日本の高齢化の進行に伴う高齢者人口の増加
・核家族化が進んだことによる家族の介護問題


介護保険法が制定される前は、「老人福祉法」に基づいて特別養護老人ホーム・養護老人ホームなどの施設の新規開設や、現在の訪問介護にあたる老人家庭奉仕員派遣事業が制度化されていました。

しかし、老人福祉法では施設やサービスを利用するために行政による「措置」が行われていたため、利用者が自由にサービスの種類を選択できないことなどの問題が指摘されていました。

さらに、福祉サービスの基盤も不十分であったため、介護を理由とした長期にわたる社会的入院や医療費の膨張なども問題視されていたのです。

介護保険法はこうした問題を解決するために、次の3点の実現を目指して創設されました。

・高齢者の介護を社会全体で支える
・利用者本意の立場から適切なサービスを総合的、一体的に提供する
・社会保険方式を導入して保険料負担の見返りとしてサービスを受けられる


こうして2000年に施行された介護保険法は、これまで6回の改定を重ねてきています。

各年度の主要な改正内容は以下の通りです。

2006年度
改正
予防重視システムへの転換。要介護状態区分を6段階から7段階に変更。地域密着型サービスと地域包括支援センターの創設など
2009年度
改正
介護事業者の法令遵守体制の整備を義務化など
2012年度
改正
地域包括ケアシステム(詳細は後述)の推進。24時間対応サービスや複合型サービスの創設など
2015年度
改正
所得に応じサービス利用者の自己負担割合が1割から1~2割へ引き上げ。特別養護老人ホーム新規入所が要介護3以上に。地域支援事業の充実など
2018年度
改正
所得に応じてサービス利用者の自己負担割合が1~2割から1~3割へ引き上げ。「介護医療院」創設など
2021年度
改正
高額介護サービス支給制度の上限見直し、地域包括ケアシステムの強化、福祉用具のレンタル費の適正化など

介護保険法に基づく介護保険制度とは?

前述の通り、介護保険法の目的は「高齢者の介護を社会全体で支え合うこと」です。「高齢者の自立支援」「利用者本位」「社会保険形式」という3つの理念に基づいて、介護保険制度では次のようなことが可能となっています。

・40歳以上の被保険者は保険料を保険者(市町村・特別区)に納めることで、要介護認定を受けた際に介護サービスなどの保険給付を受けられる

・さまざまな介護サービスの種類や事業者を利用者が自ら選択できる

・選択した介護サービスは、1〜3割の自己負担で利用できる

・介護事業に民間企業やNPOなど多様な事業者が参入できる

・ケアマネジャーによるケアプラン作成で医療と福祉のサービスを総合的に利用できる


介護保険法が3年ごとに改正される理由

2000年4月に施行された介護保険制度は、増え続ける要介護者と介護を取り巻く環境の変化に臨機応変に対応するため法改正を繰り返してきました。

「地域包括ケアシステムの推進」が掲げられた2012年度以降は、3年ごとに改正されています。

今後は少子高齢化の進展により医療・介護サービスのニーズが高まる一方で、深刻な介護人材の不足と医療や介護の財源不足に陥ることが予測されています。

とくに団塊の世代が75歳に達する2025年と高齢人口がピークになる2042年を見据えた制度の見直しを進めていかなければ、介護保険制度が立ち行かなくなることは明らかです。

そのために、制度を見直して3年ごとに介護保険法を改正して対応しているのです。

2021年度の介護保険法改正のポイント

ここでは、2021年度の介護保険法改正の要点を解説します。

2021年度における主な改正内容

2021年4月に改正された介護保険法のポイントは大きく次の5つです。

1.地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する市町村の包括的な支援体制の構築の支援

2.地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進

3.医療・介護のデータ基盤の整備の推進

4.介護人材確保及び業務効率化の取り組みの強化

5.社会福祉連携推進法人制度の創設


今後はますます、家族だけでなく地域社会全体で高齢者を支えていくことが求められているわけです。

高齢者や介護者への影響とは

さらに詳しく見ていきましょう。2021年度の改正によって高齢者や介護者に影響があった内容をまとめました。 

●高額介護サービス費が引き上げに
2021年度の改正では、利用者の負担能力に応じた負担減と金額の上限の見直しが行なわれました。

これまで一律44,400円だった自己負担限度額が、市区町村民税課税世帯の方のうち、年収約770万円~約1,160万円未満(課税所得が380万円以上690万円未満)の65歳以上の方がいる世帯では93,000円に変更されました。年収約1,160万円以上(課税所得が690万円以上)の65歳以上の方がいる世帯については140,100円まで上がっています。

また、介護保険施設(介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床)に入所もしくはショートステイを利用する低所得者の食費負担の見直しも行われました。
これは、一定額以上の収入や預貯金などがある人を対象に、在宅で暮らす人との食事・居住費用に係る公平性や能力に応じた負担を図る観点から変更されました。

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●地域包括ケアシステムを強化
地域住民から市町村に寄せられる相談にはこれまで「老人」「子ども」「生活困窮」など別々の相談窓口で対応してきました。

しかし、近年では80代の親と50代のひきこもりの子どもからなる「8050世帯」による8050問題や、育児と介護を同時に行う「ダブルケア」など複雑かつ複合的な問題が増えてきたため、異なる相談窓口では対応に困難が生じていたわけです。

そこで、市町村が包括的な支援体制を円滑に構築してまとめて解決する総合相談窓口を開設する施策が進み、国の交付金によって進められました。

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●介護人材の確保や質向上
介護人材の確保と介護業務の効率化を強化する取り組みが進められました。
質の高い介護人材を安定的に確保・定着させていくため、国と地域が連携して総合的・計画的に取り組むことになったのです。

●福祉用具のレンタル費の適正化
福祉用具のレンタル費の適正化のため、新商品を3か月に1度の頻度で全国平均貸与価格を公表することや、上限価格を設けることになりました。

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●「社会福祉連携推進法人」の創設
社会福祉法人などを社員として、福祉サービス事業者間の連携・協働を図るための取り組みを行う「社会福祉連携推進法人」という新たな法人形態が創設されました。
簡単に言うと、いくつかの社会福祉法人がグループとして法人を設立できるようになったのです。

●介護報酬の改定
2021年度の介護報酬改定では、改定率「+0.70%」のプラス改定となりました。新型コロナウイルス感染症や大規模災害への対応をはじめ、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年問題などを見据えて対策をしていくためのプラス改定とされています。

●介護保険事業計画の規定整備
今後の介護保険事業を計画的に進めるために、次の2点について規定の整備が行われました。

(1)介護保険事業計画の作成には、当該市町村の人口構造の変化の見通しを勘案する
(2)介護保険事業計画には、有料老人ホーム及びサービス付き高齢者向け住宅の設置状況を記載する


加えて、都道府県と市町村間が情報連携を強化して、有料老人ホームの情報を把握し、適切な介護基盤の整備を進めることになりました。

2024年の介護保険法改正はどうなる?

次回の介護保険法の改正は2024年に控えています。今から注目しておきたい、現在検討中のポイントについてまとめました。

介護保険の自己負担が原則2割に?

現在、要介護認定を受けている方のうち、介護保険サービスの負担割合1割の方が90%以上を占めています。しかし、次回の改定では利用者負担を原則2割とすることや、2割負担となる方の対象範囲を拡大することが検討されています。

ケアプラン作成が有料化?

介護サービス利用時に必要なケアプランの作成に、利用料を導入することも検討されています。

ケアプランの有料化は、これまで何度も議論に上がってきました。それにより介護サービスの利用を控えるケースや、ケアプランを自分自身で作成する人が増えることが想定され、ケアマネジャーの介入が困難になると予測されます。そうすると在宅介護で起こる問題の発見が遅れることなどが懸念されたため、先送りされていたのです。

しかし、再び「そのほかの介護サービスで利用者負担があることをふまえれば、ケアプラン作成は有料化すべき」との意見が上がったため、再検討が進められています。

軽度要介護者へのサービスが地域支援事業に移行?

要介護1・2の高齢者を対象とした訪問介護・通所介護を現在の介護保険サービスではなく、市町村が行う「地域支援事業」に移行するという議論もされています。

これは、財政健全化を話し合う審議会で「介護度が軽度である要介護1・2の方への訪問介護・通所介護については、要支援者と同様に地域の実情に応じた多様な人材・多様なサービス提供を行う地域支援事業へ移行すべき」との意見が財務省から示されたからです。

地域支援事業へ移行すると、場合によっては利用者の費用負担が軽くなる可能性もあります。しかし、介護報酬の引き下げが考えられるため、事業者は事業所の運営がより一層厳しいものになることを懸念しています。

介護職員の人員配置基準が緩和される?

現在、「入居者3人に対して職員1人」とされている介護施設の人員配置基準を、「4人に対して1人」に緩和することが検討されています。

人員配置基準を緩和する背景で期待されているのが、介護ロボットや人感センサーなどのテクノロジー(IoT・ICT)の活用強化や介護助手(資格不要で介護サポートをする職種)の導入です。
介護業務の効率化や職員の負担軽減を図って現場の生産性を高めることで、サービスの質を落とさず体制を見直せるのではないかという意見が出ているのです。

ただし、人員配置基準の緩和に対しては慎重論もあります。そのため、介護現場での実証実験によって職員の負担や業務の効率化がどのように進むかを検証したうえで具体的な議論を行っていくようです。

多床室の室料の見直し

介護保険施設(介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床)で入居者が共同の部屋で暮らす「多床室」の室料については、現状では相当分が保険給付のなかに含まれています。
2024年の改正では、これを除外する見直しが検討されているのです。

ただし、この3種の施設については生活の場として利用されるだけでなく、医療ケアも行われる施設でもあります。そのため、自己負担の増額には慎重な意見もあるようです。

介護保険法の改正を理解してしっかりと活用を

時代の流れに合わせて定期的に改定が繰り返される介護保険法。2024年度の介護保険制度改正については、2022年内には骨格が固まる見込みとなっており、議論はこれから本格化していくでしょう。

介護保険法の改正は、超高齢社会となった我が国にとって制度を持続可能なものとするために必要なことです。しかし、改正のたびに負担増や仕組みが複雑化するなど、とくに高齢者とその家族に大きな影響があることも事実です。

介護保険の改正で必要以上に不安にならないために大事なのは、改正で何がどう変わるのかを正しく理解しておくことです。介護保険を活用していくためにも、改正に関する情報には今後も注目していきましょう。

 
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