介護のお役立ちコラム

「パーソンセンタードケア」を実践するための5つの要素|認知症のコラム

「パーソンセンタードケア」を実践するための5つの要素|認知症のコラム

更新日:2021.02.05

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本格的な高齢化社会を迎えつつある日本ですが、介護保険制度が施行されてからさまざまなサービスが登場し、その質も非常に高い水準を満たすようになってきました。その反面、サービス利用者の獲得競争や利用者数の増加によって介護職員に多大な負担が生じ、サービスの質の低下や重大な事故を招くことが増えてきました。

今回は、介護(ケア)の基本に立ち返り、被介護者の立場を第一に考えた「パーソンセンタードケア」の理念について考えてみたいと思います。

認知症への大きな誤解を気付かせてくれた「パーソンセンタードケア」

「パーソンセンタードケア」とは、認知症の人を"一人の人間"として尊重し、その人の立場に立っておこなう認知症ケアの理念です。パーソンセンタードケアは1980年代にイギリスの心理学者であり牧師、大学教授でもあったトム・キットウッド氏により提唱されました。

その当時、認知症をはじめさまざまな精神疾患のある患者に対し、食事や入浴、排せつといった介護を、患者の意思に関係なく決まった時間に、まるでベルトコンベア式の作業のように提供されていました。しかし、そのやり方に疑問を抱いたキットウッド氏は、被介護者の性格から生い立ち、職業、価値観、ライフスタイルなど、本日ここに至るまでに経験したものを理解し、その内容に見合ったケアをおこなうことで認知症の症状も改善できるのではないかという結論に達しました。

「認知症になると当人は何もわからなくなる」と考えられていましたが、認知症の多くは記憶を"取り出せない"だけであって、喜怒哀楽といった感情は残存しています。ほんの少し前の時代まで、基本的な人権を無視した介護が世界中で浸透していたのは、実に悔やまれるところです。

"ケア"のキーワードは「共感」と「受容」。そして信頼関係

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私たちがたびたび用いる「ケア」という言葉の意味も再認識しておきましょう。「Care」の意味を英和辞典で調べると、心配、世話、保護、関心事など色々な意味があり、集約すると"他者を気にかける"というところに行き着きます。

アメリカの社会学者ミルトン・メイヤロフ氏は自らの著書『ON CARING(邦題:ケアの本質)』の中で、「私はケアする対象を、私自身の延長のように身に感じ取る」と述べています。つまり、他者を気にかけるとき、自分自身が同じ痛みを経験したら嫌だから、おのずと他者に手を差し伸べるという行動に移すのです。こう考えると、ケアはただの「介護」だけにとどまらない概念であることがよくわかります。

また、ケアに必要な基本的理念として「共感」と「受容」が挙げられます。「共感」は他者が体験した感情を自分のもののように感じること。「受容」は、他者が抱く気持ちや置かれている状況をありのままに受け止めることです。

ケアを通じてこの2つを確立していくのは、大変根気も時間もいるものです。それでも被介護者は、自分のために考え行動してくれる介護士に対する感謝が生まれ、介護者は、サービス利用者の笑顔や「ありがとう」の一言で救われます。この繰り返しによって生まれた信頼関係はケアをおこなっていく上での源泉となります。

介護の現場において、共感と受容が介護者と被介護者の間で成立することによって気持ちにメリハリを持てるようになり、身体介助に頼らない自立した生活にシフトすることができるのです。

パーソンセンタードケアの核となる5つの心理的要素

それではパーソンセンタードケアを実践していく上でどのようなメソッドが必要なのでしょうか? 決して専門的な技術や知識ではなく、認知症患者の気持ち(心理的ニーズ)を知ることが大切です。

キットウッド氏は①自分らしさ、②結びつき、③携わること、④共にあること、⑤くつろぎの5つの心理的要素を挙げています。そして、この5つを花びらになぞらえ、花の中心部には全要素に根ざした、人間がもっとも必要とする「愛」を据えました。

①自分らしさ(Identity)

自分自身がほかの誰でもない唯一の存在であるということ。そして過去からつながって今の自分があるということを認識することです。認知症になると、記憶の面で過去と現在との接点が寸断されてしまうことが多いため、最もナイーブな心理的要素と言えます。

②結びつき(Attachment)

人との結びつきはもちろん、特定の物や行為への愛着も含まれます。記憶障害や見当識障害が進むほど、昔からよく知る人や物とつながって安心を得ようとするのは、ごく自然な流れです。

③携わること(Occupation)

英語のOccupationには「職業」という意味もあります。若いころに得たスキルを生かし、家族や地域社会に対して小さなことでもお手伝いができれば、感謝される喜びや自分が必要とされている実感がわいてきます。また、体や手先を動かすことは健康増進にもつながります。

④共にあること(Inclusion)

認知症の人も、自分が集団の中の一員であることに安心感を覚えます。逆に人の輪から外されたことで疎外感を覚え、不安や孤独からますます認知症が進行することもありあり得ます。

⑤くつろぎ(Comfort)

長時間同じ体位でいないか、おむつ交換がされていないかなど、苦痛や不快な状況を強いられていないこと。またそれだけでなく、家族、介護士、訪問客などとのふれあいによって心が安心してリラックスできているかも重要な要素です。

上記のうち一つでも満たされると、連鎖するようにほかのニーズも満たされるようになり、心理的に落ち着いた状態を取り戻すことができると考えられます。決して学術的なレベルの話でなく、日ごろから認知症高齢者のことを気にかけ、輪の中に入れることで、自然とQOL(生活の質)も改善されていくはずです。

認知症が「よくない状態」へ向かわないよう、注意すべきこと

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認知症の症状には個人差がありますが、同じ人でもその日によって異なる態度や表情を示すこともあります。ここで介護者の気分によって認知症患者への接し方や介護の方法を変えてしまうと、被介護者は「いつもと違う」ことに不安を覚え、パーソンセンタードケアが実践できなくなる恐れがあります。

ここで大切なのは、認知症患者の立場になってケアの質を評価する基準を持つことです。キッドウッド氏の研究グループは、長い時間認知症患者の観察を続け、認知症の「よい状態」と「よくない状態」の目安(サイン)をまとめました。

よい状態の目安

表現できること
周囲の人に対する思いやりを示すこと
ユーモアを示すこと
喜びを表現できること
自尊心(汚れ、乱れを気にすること)など

よくない状態の目安

ほったらかしにされている状態
強度の怒り
体の緊張、こわばり
無関心、無感動
引きこもり など

これらは明確に二分されるものではなく、日々の生活の中で刻々と変化するものです。中でも「よくない状態」に向かってしまうケースとして、嘘をつくことと子ども扱いすることが挙げられます。

「認知症だからどうせわからない」と思って、だまして本人が嫌がる病院へ連れ出すことは絶対にNGです。認知症の人は「家族に裏切られた」という心の傷がいつまでも残ります。また、赤ちゃん言葉で話しかけたり「○○ちゃん」と名前で呼んだりすることもいけません。侮辱されたと思い、築き上げた信頼関係も破綻してしまいます。

終わりに

キッドウッド氏の母国イギリスをはじめ、パーソンセンタードケアを導入したことによって認知症改善の結果が出ている施設もあります。パーソンセンタードケアは日々の気づきや寄り添う姿勢が重要なだけに、マニュアル通りにできない難しさもあることでしょう。それでも、一人の人間として尊重することで、ケアの解決策や喜びを分かち合える出来事など、介護する側とされる側の双方にとって素敵な答えが見つかるはずです。

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