
日常的な生活支援・身体介護を要する高齢者は要支援1・2または要介護1~5の7段階に分類されることはすでにご存じの方も多いでしょう。ただ、この要介護度。どのような基準で判定がなされているのか、疑問に思う方もいるのではないでしょうか? 今回は、要介護認定の大きな判定基準となっている、障害高齢者と認知症高齢者の「日常生活自立度」について解説します。
日常生活自立度とは?
「日常生活自立度」とは、認知症や障害のある高齢者が、どれだけ独力で日々の生活を送ることができるのか、その程度をレベル分けした基準値です。障害のある高齢者は4段階、認知症高齢者は9段階に分類されています。
この日常生活自立度を最初に計るのは、介護保険の申請時です。市区町村の役所窓口で介護保険申請の手続きを終えたあと、今度は市区町村の担当者(調査員)が自宅を訪問します。高齢者に面談をおこない、その調査内容をもとに調査員がレベルづけをします。 その後コンピューターによる一次判定、主治医が作成する「主治医意見書」と併せた二次判定を経て、最終的な要介護度(または要支援度)が決められるのです。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)の4段階

この判定基準は地域や施設などにおいて、障害のある高齢者の日常生活自立度を客観的かつ短時間に判定することを目的として作成したものです。「寝たきり度」とも言います。
ランクJ(生活自立)
病気やケガの後遺症による何らかの障害はあるものの、日常生活はほぼ自立しており、独力で外出できる状態。
電車やバスなどの公共交通機関を使い、比較的遠方まで外出可能な状態をJ‐1、自宅から徒歩圏内で移動できる状態をJ‐2と分類しています。
ランクA(準寝たきり)
屋内での生活はほぼ自立しているものの、外出については付き添い(介助者)を必要とする状態。
「準寝たきり」「寝たきり予備軍」などとも言われています。睡眠、休息時以外はベッドの外で過ごし、介助者とともに外出する機会の多い状態をA‐1、外出の機会が少なく、寝たり起きたりを繰り返している状態をA‐2と分類しています。
ランクB(寝たきり)
屋内での生活にも何らかの介助が必要で、座位を保ちながらも、日中はベッドの上での生活が主体となる状態。
独力で車いすへの移乗が可能で、食事や排せつもベッド外でおこなえる状態をB‐1、車いすへの移乗から、食事、排せつなどすべてにおいて介助者が必要な状態をB‐2と分類しています。
ランクC(寝たきり)
ランクBよりも障害が重く、1日中ベッドの上で過ごし、すべてにおいて介助を要する状態。
寝たきりながら独力で寝返りが打てる状態をC-1、できない状態をC‐2と分類しています。
認知症高齢者の日常生活自立度の9段階

それでは認知症高齢者に対する日常生活自立度の、9段階(Ⅰ、Ⅱ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、M)の内容を見てみましょう。基本的に数字が大きくなるほど自立度が低くなり、手厚い日常支援や介護が必要となる傾向にあります。
Ⅰ)何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内および社会的にほぼ自立している状態
在宅生活が基本。家族や支援する人がいれば日常で困ることはほとんど変わりなく日常生活が送れるレベルです。
Ⅱ)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られるが、誰かが注意していれば自立できる状態
在宅生活が基本ですが、一人暮らしが困難な場合は日中の居宅サービスを利用して支援を受ければ生活を継続できるレベルです。
Ⅱa)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭外で見られるが、誰かが注意していれば自立できる状態
在宅生活が基本。ただし、周囲が目まぐるしく変わる屋外は、認知症高齢者にとってその状況を把握するだけでも大変なことです。道に迷う、買い物時の計算ができないなどの症状が見られる場合はこのレベルに該当します。
Ⅱb)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭内で見られても、誰かが注意していれば自立できる状態
日常生活を送る慣れ親しんだ家でも症状が出る場合は、Ⅱaよりも重度と判断される傾向にあります。具体的には、服薬管理ができない、留守番(電話応対、来客応対)ができない場合はこのレベルに該当します。
Ⅲ)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする状態
Ⅱよりも認知機能が低下しており(たとえば、着替え・食事・排便・排尿が上手くできないもしくは時間がかかる、など)、見守りや支援を必要とする在宅生活者の認知症高齢者が当てはまります。ただし、一時も目を離せない状態ではありません。一方で、家庭事情によっては居住系サービスの利用を検討してもよいレベルと言えます。
Ⅲa)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが日中を中心に見られ、介護を必要とする状態
Ⅲの症状が日中に見られるレベルです。認知症高齢者が一人暮らしの場合や、家庭事情で頻繁な見守りや支援が困難な場合は、居住系サービスの利用を検討するのがよいでしょう。
Ⅲb)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが夜間を中心に見られ、介護を必要とする状態
認知症の程度としてはⅢaと同等ですが、徘徊や大声を出すといった症状が夜間でも見られる場合はこのレベルに該当します。生活が昼夜逆転することによって、本人の健康状態の悪化を招く可能性が高くなり、Ⅲaより認知機能が低下しているとみなされます。介護にあたる家族の疲労も大きくなるため、夜間対応の居宅サービスと居住系サービスを併せて利用する方法も検討しましょう。
Ⅳ)日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする状態
Ⅲよりも認知症の症状が多い頻度で現れる状態です。在宅介護が難しくなり、本格的に老人福祉施設や居住系サービスの利用を検討せざるを得ないレベルと言えます。
M)著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする状態
激せん妄や幻覚が見られるケースや、暴力行為、自損行為などが見られる場合に適用されます。こういった精神疾患が原因で起こると見られる症状は、専門医の管理下での治療が必要です。Mのみは、認知症の程度に関係なく適用されるレベルとなります。
日常生活自立度の問題点

以上のように、要介護度を決定するうえでの重要な基準となる日常生活自立度ですが、問題点もあります。
まず、調査(聞き取り)内容によって判定されるため、調査員の認知症への理解度、経験によってその結果にバラツキが出ます。また、見慣れない人が突然家までやってきて、自分のことを根掘り葉掘り聞かれれば、不信感を示す方や緊張して言葉が出てこない高齢者も少なからずいるでしょう。誰もが普段どおりのリラックスした状態で面談に応じられるわけでもないため、たまたま話せないだけで重度の判定が下されてしまう可能性も大いにあり得ます。
調査員から同居する家族に対しても質問がおよぶことがありますが、長年別居していたあとに一緒に暮らし始めた人や、そもそも親子間のコミュニケーションがあまり円滑でなく、親に対して家族が誤解しているケースなどもあります。こういった場合は調査員に正確な情報を伝えられず、判定に不利な影響が出かねません。
今後始まる介護生活を見据えて
介護保険の受給を前に、市区町村から派遣される調査員との面談は欠かせないプロセスです。そのため、普段どおりの態度で臨めず、不利な判定をされるのは避けたいところ。 自分が認知症またはその予備軍であることを認めたくないという高齢者は多くいますが、まずはじっくり本人と話し合い、緊張や心のバリアを徐々に解きほぐしていくことが重要です。