介護のお役立ちコラム

自宅でもできる、認知症ケア「回想法」の実践方法について|介護のコラム

自宅でもできる、認知症ケア「回想法」の実践方法について|介護のコラム

更新日:2021.11.12

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現在のところ、認知症を完治させる薬や療法は存在しません。しかし、認知症の進行を遅らせ、情緒を安定させるためのメソッドはいくつかあります。その代表格とも言えるのが、軽度の認知症高齢者のケアで実践されてきた「回想法」です。今回はこの回想法にスポットを当て、自宅での実践を踏まえたやり方について紹介していきます。

「回想法」は話し手と聞き手のコミュニケーションで成り立つ心理療法

回想法は1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって提唱された、おもに高齢者を対象とした心理療法で、昔の楽しかった思い出や経験を振り返ってもらうことで精神の安定を図ることを目的としています。

認知症になった場合、人間の脳は直近の記憶から失われていくものですが、反して過去の記憶は比較的しっかりと残っている場合が多いのです。このため、軽度の認知症がみられる高齢者でも、その人にとって懐かしいテーマを与えてあげることで、遠い過去の記憶を呼び覚まし、頭の中で昔と今をつなぐことができます。同時に、楽しい話に花を咲かせることで、気分も活性化し生きることへの意欲も湧いてきます。

回想法は、ただ懐かしいテーマを与えればよいというわけではなく、話を受け止める"聞き手"の質も、その効果に大きく影響します。記憶を頼りに真剣に話をする高齢者に対して、共感的かつ受容的な姿勢で耳を傾けることが重要で、その人が歩んできた人生を肯定し尊重することで、話をする高齢者も自信に満ちてきます。このように回想法は、話し手と聞き手のコミュニケーション力によって、数値では表せない多大な効果を生む可能性を秘めた心理療法と言えます。

介護現場での回想法

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もともとは病院での療法の一環としておこなわれていた回想法ですが、現在では高齢者が利用する介護現場で広く活用されています。

回想法は、医師やセラピストと高齢者が一対一で対話する「個人回想法」と、複数人の高齢者が集まって語らう「グループ回想法」に大別できます。開発当時は病院での治療として個人回想法がおこなわれていましたが、現在では、デイサービスや老人ホームなどの現場で、レクリエーションの一環としてグループ回想法が導入されています。

実際の回想法のやり方としては、昔懐かしい写真や道具などをテーブルの上に並べて、参加者に自由に語り合ってもらいます。これらを用意するのが難しい場合は、植物や食べ物、芸能人、有名な景勝地や自然遺産、建造物などをインターネットで検索して、これらのコピーを題材にしてもよいでしょう。

参加者の中にはよくしゃべりたがる人もいれば、寡黙で人前で話すことが苦手な人もいます。回想法の途中、退屈そうな素振りを見せる人がいるかもしれません。それでも、話すのは苦手でも会話の中に混じって話を聞くことが好きな人もいるはずです。自らしゃべらなくても、人の話に同調して満足感を得ることもあります。そのため、レクリエーションを実施する介護職員は、参加者の表情や態度を見て"楽しんでいる"ことを確認することが求められます。

回想法のテーマ選び

グループでおこなう回想法の場合のテーマ選びについて考えてみましょう。回想法は「性別」「世代」「地域」の3点を念頭に置いて選ぶと効果的です。

楽しくおしゃべりとは言っても、男女では話題が異なってくるのは当然のことです。男性の場合は野球、大相撲、ゴルフなどのスポーツ(観戦)や、釣り、囲碁・将棋、自動車・バイクといった趣味に着目するとよいでしょう。女性の場合は、料理や昔に流行したファッション、テレビ番組などがおすすめです。どうしても男女混合になってしまう場合は、当時流行したレコードのジャケットや映画のポスターなど、性別を超えてブームになった物を提示してみるのが無難でしょう。

同性の場合でもジェネレーションギャップがある場合、話題は盛り上がりません。参加者の年代を考慮してテーマを選ぶことも重要です。例えばプロ野球を取り上げる場合、現在の70~80歳の世代にはON(王貞治、長嶋茂雄)は鉄板です。その下のONの現役時代を知らない世代の場合、落合博満や衣笠祥雄の名前(写真)を出した方がより深い興味を示すかもしれません。

人が興味を示す要素として、地域性も無視できないポイントです。参加者が生まれ育った地域にある自然遺産や、寺社仏閣などの建造物やモニュメントを取り上げれば、より饒舌になる人もいます。またスポーツでも、大相撲の力士や高校野球はより地域性が強いものです。参加者の出身地が前もってわかる場合、その地域にゆかりのあるテーマを出してみるのもテクニックの一つです。

回想法を自宅で実践してみよう

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回想法はちょっとした気分転換や脳トレのような感覚で自宅でできるのもメリットです。自宅の場合、ほかの参加者がいないため、より高齢者本人に即したテーマを採用することができます。

介護施設でやる場合と同様に、昔懐かしいテーマを集めることから始まります。写真の現物や道具が手元にない場合は、インターネットで検索して写真や図柄をスマートフォンや携帯タブレットの画面で見せてあげるのが手軽でよいでしょう。リハビリと考えるとどうしても堅苦しくなりがちですが、家族との楽しい団らんとしてゲーム感覚で取り組めば、無理なく定期的に続けることが可能です。

回想法で避けるべき話題

回想法は楽しくやるのが重要ですが、テーマによっては過去の辛い記憶を呼び起こす可能性もあります。その最たるものは、やはり「戦争」でしょう。戦争を経験している高齢者は多いため、何かと戦争とリンクしそうな題材は避けるようにしましょう。

また戦後、軍国主義の崩壊によってさまざまな思想、価値観が生まれ、社会主義や共産主義が誕生し、それを機に発生した学生運動では多くの負傷者、逮捕者を出しました。このように、戦争を経験していない下の世代の高齢者に対しても気配りが必要で、政治や思想に根付いたイデオロギーを想起させるようなテーマは避けるべきです。

終わりに

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認知症を緩和させるための処方薬はありますが、副作用のリスクはもちろん、人によっては暴言・暴力行為がエスカレートして逆効果になる可能性も否定できません。今回取り上げた回想法は健康を害する可能性も皆無で、誰でも楽しんで参加することができます。飽きが来ないためのテーマ選びは大変かもしれませんが、何より参加する人たちが楽しむことが、認知症改善のための一番の薬となるはずです。

「回想法」を取り入れているおすすめ施設はこちら

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プレザンメゾン板橋徳丸(東京都板橋区)
株式会社ケア21が運営する有料老人ホームです。
ここでは、様々なアクティビティのひとつとして、『おとなの学校』という認知症ケアのための回想法を用いたカリキュラムを設定しています。(画像は回想法に使われるテキスト)
各アクティビティへの参加は入居者が嗜好や体調によって選択でき、また日々の暮らしをよりよいものにするための会議にも入居者が関われるなど、主体性を持って生活したい方におすすめのホームです。

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