介護のお役立ちコラム

【医師監修】加齢によって現れる心の変化「老人性うつ」にならないためにできること|認知症のコラム

【医師監修】加齢によって現れる心の変化「老人性うつ」にならないためにできること|認知症のコラム

更新日:2020.05.27

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定年退職を迎えると、家で過ごす時間が長くなることかと思います。今までの生活が一変して、暮らしの中のメリハリが薄れ、急に元気がなくなったというシニア世代も多いのではないでしょうか? こういった心の影は、やがて大きな心の病気に発展し、暗く不安な毎日を過ごすことになってしまいます。今回は、高齢者が陥りやすい「老人性うつ」について、認知症との違いなどを含めて紹介するとともに、治療法などについても触れていきます。


【監修者】
木村 眞樹子医師

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医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。


老人性うつにつながる、さまざまな要因

「老人性うつ」とは、主に65歳以上の高齢者に見られるうつ症状を指すもので、何事に対してもやる気が起きない、暗い気分(抑うつ状態)が続く病気です。具体的には以下のような症状が現れます。

●不眠または眠りが浅い
●食欲不振または増加
●疲れやすくなる
●無気力・無関心
●怒りっぽくなる
●事あるごとに自分を責める
●趣味や興味があることを楽しめない
●集中力の低下
●自殺について考える

人間は年齢を重ねると、若いときと同じように体力・気力を維持することは難しくなり、「年老いた」と感じることであらゆるモチベーションが下がってきます。こういった心理的要因によって老人性うつを発症すると考えられています。

特に男性の場合、近所付き合いなどが女性と比べて軽薄なため、定年退職後は人と会う機会が急減し、外部から受ける刺激も少なくなります。趣味など夢中になれるものもなく仕事一筋に打ち込んできた人にとって、急激な生活の変化はあまりに残酷です。引っ越しにともなう住環境の変化や、配偶者やペットとの死別によるショックから老人性うつになる人も少なくありません。また、家族との仲が軽薄になり、そこから生じる疎外感も老人性うつの原因のひとつと考えられています。

老人性うつで恐ろしいのが、最悪の場合、自殺に走る可能性があることです。急を要する病気ではないと軽く考えていると、取り返しのつかないことになってしまいます。

老人性うつと認知症の違いは?

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老人性うつはアルツハイマー型認知症と混同されるケースもあることが、厄介な点でもあります。早期発見により適切な治療を施せば治る病気ですが、現れる症状が認知症の初期症状とよく似ているため、発見が遅れることもあります。また人によっては、頭痛、めまい、肩こり、手足のしびれなど、ほかの病気でも見られる病状が現れることもあるため、ますます診断が難しくなります。

認知症との主な違いは以下のとおりです。

症状の進行

認知症は老化にともない自然に発症するもので、発症の有無も個人差があります。病状の進行も基本的には緩やかです。一方、老人性うつの場合は、定年退職や死別などの"きっかけ"があって発症します。発症後の病状の進行は認知症と比べ早い傾向にあります。

病気に対する自覚の有無

認知症の場合、発症直後は認知機能の衰えに対する不安を見せることがありますが、病状が進むほど自覚症状は乏しくなります。一方、老人性うつの場合、認知機能の低下が自分でもはっきりとわかるため、頻繁に不安を感じるようになります。またその状態が続けば、どうしたらよいかわからずパニックになり、ますます精神的に不安定になります。

記憶障害

認知症の場合、例えば食事を取ったのに食べたことを忘れてしまうなど行動そのものが記憶からなくなるため、物忘れに対する認識はありません。これが老人性うつの場合、物事を思い出せないという自覚があるため、気分の落ち込みに拍車をかけてしまいます。

気分の落ち込み

アルツハイマー型認知症患者に抑うつ状態が見られることはあまりありません。また一日を通して状態も安定しています。老人性うつの場合は、気分の落ち込みが大きく、気持ちの変化に波があります。朝方調子が悪くても、夕方にはすっかり機嫌がよくなっているなどの変化も見られます。

会話の内容

認知症の人に話しかけた場合、同じ話題を何度も持ち出すなどの言動は見られるものの、基本的にはスムーズな受け答えが期待できます。これが老人性うつの場合、話しかけた内容が瞬時に理解できず、返答に時間がかかるか、最終的には答えられないことが考えられます。

老人性うつとアパシー(無気力)の違いは?

認知症と混同されることの多い老人性うつですが、アパシー(無気力)も同様です。アパシーの場合、何事にも無関心になるため、老人性うつで見られる気分の浮き沈みはなく、自損行為に走る心配もありません。ただし、着替えや部屋の清掃、食事の後片付けなど必要最低限の身の回りのことに対してもモチベーションを保てなくなるため、特に一人暮らしなど離れて暮らす高齢者に対しては要注意です。

【関連記事】
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老人性うつの治療法

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老人性うつを発症した場合、神経内科などで治療を受けることになります。一般的なうつ病と同様、「薬物療法」「カウンセリング」「環境の調整」が治療の3本柱となります。

薬物療法では、抗うつ剤を用いた治療になりますが、副作用も強く、体質によっては合わない高齢者もいるため、あくまで医師の判断のもと慎重に踏み切る必要があります。カウンセリング(精神療法)は医師との間でコミュニケーションを図りながら症状の改善を図ります。家族が声をかけ元気づけることも時には大切ですが、安易な励ましはかえってプレッシャーとなり、逆効果でうつ状態が悪化する恐れもあります。

環境の調整については、患者本人にとってストレスのない環境を周囲が用意してあげることです。疎外感によって老人性うつを発症する人も多いため、適度に家事をお願いするなど、無理のない範囲で家族や社会の輪の中で活躍できる場を用意してあげるようにしてください。

最後に

老人性うつは心の病気だけに、必ず治る保証はありません。それだけに、病気を発症しないよう予防に努めることが最優先です。心の変化は日々一緒に暮らす家族でなければ察知することは難しいもの。よく観察して、少しでもおかしい様子があれば医師の診察を受けるようにしてください。そして、会話を通じてコミュニケーションを図り、一緒に出かけるなど共有できる時間を持つことが、家族にできる最大限の予防策となることでしょう。

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