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認知症診断の礎となった「長谷川式簡易知能評価スケール」について|認知症のコラム

認知症診断の礎となった「長谷川式簡易知能評価スケール」について|認知症のコラム

更新日:2020.03.18

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世界規模で認知症高齢者の数が増えていますが、日本では、2025年には高齢者全体の20%、つまり5人に1人は認知症になると推測されています。機運の高まりに合わせてもの忘れ外来などを受診する高齢者も増えていますが、認知症診断の入口ともいえる検査ツールに使われているのが「長谷川式簡易知能評価スケール」です。

今回は、世界の認知症診断の大きな礎となった長谷川式簡易知能評価スケールについて、開発者である長谷川和夫氏のエピソードと合わせてご紹介します。

長谷川式簡易知能評価スケールが誕生するまで

「長谷川式簡易知能評価スケール(以下、長谷川式スケール)」は、1974年に聖マリアンナ医科大学神経精神科教授(当時)だった長谷川和夫氏らによって公表された認知症の診断指標です。

見当識、計算力、注意力、記銘力、再生(インプットした情報を即座に答える)などが正常に機能しているか、合計11個の設問の回答内容をもとに採点化し、合計32.5点中10点以下で痴呆(当時まだ「認知症」という言葉がなかった)と判定していました。

設問内容は、「今日は何月何日ですか?」「出生地はどこですか?」「100から順に7を引いてください」などがあります。長谷川式スケールを作るにあたり、高齢者の集中力を考慮して短時間で回答できる設問にしたほか、視力の衰えが回答を難しくさせる可能性があることから、視覚的な要素は問題に加えないといったことが配慮されました。

長谷川式スケールが誕生した背景ですが、発起人は長谷川氏本人でなく、長谷川氏の恩師である東京慈恵会医科大学の新福尚武教授の指示によって作られたものなのです。当時は痴呆の明確な診断基準がなく、症状は日によって異なる上、接見した医師によって診断内容が変わってくるようではいけないという意見があり、急きょ診断指標が作られることになりました。

前例もなく、認知症という目に見えない領域でどのような"ものさし"を作ればよいのか。都内の老人ホームに足しげく通いヒアリングを重ねたほか、全国約900の施設に対してアンケートを実施するなど、長谷川氏そして一緒に共同開発に携わった教授たちは日々苦悩の毎日だったようです。

1991年に改訂。そして現在へと引き継がれる

その後徐々に定着してきた長谷川式スケールですが、1991年に改訂されることになりました。その大きな理由が、設問のいくつかが時代にそぐわなくなってきたためです。

例えば、改訂前6個目の質問項目に「大東亜戦争の終戦日は?」または「関東大震災が起きた日は?」とありましたが、時代の流れとともにもとから知らない人も出てきます。さらに、出生地を尋ねる質問にしても、家族が同席していなければ正解が確認できない、つまり間違った回答を正解としてしまう可能性も出てきました。また、将来的に海外展開したときのことを考え「日本の総理大臣の名前は?」という質問項目も削除されました。

改訂版の内容は以下のようになっています。

改訂版「長谷川式簡易知能評価スケール」と採点法

<1>お歳はいくつですか?
(2年までの誤差は正解。配点1点)

<2>今日は何年の何月何日ですか? また何曜日ですか?
(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ。年については西暦も正解)

<3>私たちが今いるところはどこですか?
(自発的にでれば2点。5秒おいて、家ですか?病院ですか?施設ですか?の中から正しい選択をすれば1点)

<4>これから言う3つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください
(以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をつけておく。各1点)

1:(a)桜(b)猫(c)電車
2:(a)梅(b)犬(c)自動車

<5>100から7を順番に引いてください
(100-7は? それからまた7を引くと? と質問する。各1点。最初の答えが不正解の場合、打ち切る)

<6>私がこれから言う数字を逆から言ってください
(6-8-2、3-5-2-9)
(3ケタ逆唱に失敗したら打ち切る。各1点)

<7>先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください

(a)植物(b)動物(c)乗り物
(自発的に回答があれば各2点。もし回答がない場合、以下のヒントを与え正解であれば1点)
(a)植物(b)動物(c)乗り物

<8>これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言ってください
(各1点。時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)

<9>知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください
(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり、約10秒間待ってもでない場合にはそこで打ち切る。
5個までは=0点、6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個=5点)

30点満点。20点以下は認知症の疑いあり

差別的な意味を含む「痴呆」を止め「認知症」へ

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2000年に入り介護保険制度がスタート。介護そのものの概念や認知症患者に対する扱いも、一家族の中で完結するものから社会全体で取り組むべき課題として認識され始めるようになりました。その矢先、これまで平然として使われてきた「痴呆」という言葉が非常に差別的で失礼だという意見が国民から聞かれるようになりました。

「痴」という字は「馬鹿な、馬鹿げた」、「呆」という字は「あきれる、阿呆(あほう)」という意味があります。この名称を改名するため、厚生労働省は2004年に識者を集めて検討会を開き、長谷川氏もメンバーに名を連ねました。そして、国民から寄せられた声も参考に、現在の「認知症」という名称が決定し、これまで「痴呆~」と名付けられていた法令名なども、一部の病名を除き改められました。

アルツハイマーがみられるというだけで、その人に「痴呆」という病名を与えてしまえば、仮に目立った症状が見当たらなくても、世間からは"問題行動を起こす人""当たり前のことができない人"という負のレッテルを貼られてしまいます。これは「痴呆」という言葉が人の尊厳を傷つけることを意味しています。今でこそ認知症という言葉が定着してきましたが、この名称変更がその後の福祉のあり方や介護の質を大きく左右したことは間違いありません。

自らも認知症を受け入れ、公表した長谷川氏

長谷川式スケールを考案した長谷川和夫氏について触れてみます。長谷川氏は幼いころに読んだ野口英世の伝記に影響を受け医師になることを決意。1953年に東京慈恵会医科大学を卒業した後、アメリカ留学を経て同大学の精神神経科助教授に就任。長谷川式スケールの公表後は、第4回国際老年精神医学会の大会長、国際アルツハイマー病協会第20回国際会議組織委員長を務め、2002年に聖マリアンナ医大の理事長に就任。現在は第一線から退いているものの講演活動で全国を飛び回っています。

そんな長谷川氏ですが、2017年に自らも認知症であることを公表しています。当時88歳。認知症を発症していてもおかしくない年齢です。認知症の公表後は、家族や知人に支えられながら、実際に認知症になった人の視点で認知症について語る活動を始めています。認知症の影響もあり、突然話の内容が脱線したり歌を歌い始めたりと、確実にサポートが必要な状態になってきています。

患者に"寄り添うケア"を古くから実践

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長谷川式スケールを公表した1974年直後から、診察を希望する患者が次々と長谷川氏のもとへ訪れるようになりました。当時はまだ明確な治療法もなく、外来だけでは不十分と感じていた長谷川氏は、独自にデイケアを設けることを決意します。デイケアでは診察と合わせて認知症患者に歌や体操といったレクリエーションを提供し、家族には認知症ケアの助言をおこなうなど、今でいうデイサービスに近い内容でした。

当時、医療と介護は完全に縦割りで、医師という立場の人間が介護に近い分野にかかわることは極めて異例だったと思います。長谷川氏は診察の際に、患者とその家族の言葉一つひとつを真摯に受け止め、認知症ケアに役立ていました。その思いがデイケアの創設につながったのです。このように、人生の大半を認知症研究にささげ、患者に寄り添うケアを実践してきた長谷川氏の情熱があったからこそ、多くの人が認知症という病気を受け止めることができたのです。

最後に

現在の長谷川式スケールが使われるようになって30年が経ちますが、認知症の正確な診断および早期発見に大きく寄与してきました。それでも「人生100年時代」と言われるように、平均寿命の向上とともに認知症にかかるリスクはさらに増していくばかりです。

長谷川氏は講演活動の中で、「認知症は誰にでも起こることで、決して怖がる必要はない」と説いていますが、それには家族など周囲の人の認知症への正しい理解、そしてサポートが求められます。認知症は患者一人だけが背負うのではなく、家族一丸で立ち向かっていく病気であるということを心にとどめてください。

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