起業の動機(探しっくす誕生前夜)
「世のため人のためになる仕事を」
正直言いますと、はじめからシルバー産業に興味を持っていたわけではありませんでした。もちろん、自分が起業することなど考えもしませんでした。今思い起こすと、あのときの父の言葉が大きいのかもしれません。
共働き家庭だった私は、幼少期から自由奔放に育てられ、何をするにしても自分の判断に任されてきました。子供のころに職人気質の父親となにかをじっくり話したという経験は、ほとんどなかったと思います。そんな父親から、たった一言「世のため人のためになる仕事をしなさい」と言われたときは、身の引き締まる思いがしました。ちょうど大学4年の就職活動をしているときで、この言葉が心に響いたのでしょう。人々の身のまわりにあるもの、ないと困るものに携わる仕事をしたいと思い、大手の住宅設備会社に就職しました。
就職してからは仕事に追われる日々で、父親の言葉を思い出すことはありませんでした。営業職だったこともあり、数字を上げろということで、とにかくがむしゃらに働きました。ちょうど入社して5年目のときだったと思います。社内でシルバー事業部を立ち上げるということになりました。特にシルバーに興味があったわけではないのですが、新しいことにチャレンジしたいと思い、社内公募という制度を利用してシルバー事業部に転籍しました。
業務内容の違いに、はじめは戸惑いました。シルバー事業をやるなら介護の現場を知らなければならないという当時の上司の方針もあって、特養に通って食事や入浴の介護をしたり、介護ショップに丁稚に行って介護ベッドを運んだりといった洗礼が待っていたのです。しかし、こうした介護現場を肌で感じる経験を通して、数多くのことを学んだのは事実ですね。介護に携わる様々な人たちと出会い、彼らすべてが老いていく人々に対して少しでもいい状況で生活させてあげたいと真剣に目指していることに気づいたとき、なんて魅力的な業界なのだろうと思うようになりました。徐々に引き込まれ、いつしか自分も彼らと同じ視線でものを見るようになっていました。そのときはじめて、父親の言葉が本当の意味で理解できたように思います。「世のため人のためになる仕事」とは、こういうことなのかもしれない、と。
そして、そうこうしているうちに人生のひとつの転機を迎えます。特に会社に不満があったわけではないのですが、今後の自分の職業人としてのあり方について思うところがあり、会社を退職することにしました。シルバー事業部にいたとき、事業部のホームページを作った経験があったのですが、かねてよりウェブ制作に本格的に携わってみたいと考えていたこともあり、独立に踏み切りました。フリーで仕事をするなど、もちろんさまざまな紆余曲折があったわけですが、それでも退社して1年で起業できたことは運がよかったのだと思います。
現在のミッション(探しっくす誕生)
「"老後の生活"という人生のクライマックスを快適におくっていただくために、役立つ情報を伝えたい。それが『探しっくす』の使命です」
起業当時から、シルバー事業とインターネットを結びつけることは考えていました。シルバー事業にかかわっているときに、ちょうど介護保険が導入されるという話がありましたが、市場をリサーチし企画を立てていくというなかでよくよく調べてみると、介護保険が実施される、ただそれだけで老後がすべてハッピーになるというものではないということがわかりました。当時は年金の問題も顕在化してきた時期でしたし、将来への不安を拭い去ることができない現実を実感しました。だったら従来のシルバービジネスとは違うやり方で、お年寄りの不安を少しでも解消する力になれないものかと考えました。そこで考えたのが、今の「探しっくす」の原案だったわけです。ただ当時、「探しっくす」を世に出すには時期尚早だと考えていました。利用者に本当に役立つホームページを作るための環境が、まだすべて揃っていなかったのです。
利用者本位ということへのこだわりがあったのだと思います。他の事ならともかく、シルバーという分野に関してだけは、うそをつきたくないと思っていました。だから中途半端なものは作りたくなかったのです。
現在、都心部の特養は万床状態で、希望してもなかなか入所できないという現実があります。また利用者が満足したサービスを享受できるかといえば、それもなかなか難しい。それに比べて有料老人ホームはかなりサービスも充実しているし、ここでならお年寄りも質の高い生活を続けることができると当時から思っていました。しかし、入居金はかなり高額でしたし、一般の方々にはなかなか手が出せない買い物でした。充実したサービスといっても、コストパフォーマンスを考えると受け手と提供側の釣り合いが取れていなかったので、まだまだ普及するまでにはいたっていませんでした。
サービス業として成立する状態にならないと、サービスを提供する人と受ける人との関係は決していいものにはならないと思います。そういう意味では、現在、有料老人ホームの数が多くなり、切磋琢磨しあう民間活力のおかげでサービス面での工夫や向上が実現され、ようやく世の中の流れとして有料老人ホームが終の棲家の選択肢として考えられるようになってきたと思います。
現在、ブロードバンド化を迎え、インフラが整備されました。また、インターネット利用者も増大し、多くの年齢層にまで普及しています。そして、有料老人ホームはハード・ソフトともに充実してきた。こうした現状を見たとき、さまざまな材料が揃うなかで今足りないものは何かというと、やはり“わかりやすい確かな情報”だと思います。ではその必要とされている情報が足りないなかで、ウェブ制作会社として世のため人のためにできることはなにか。社会に貢献できて、お年寄りが快適な老後を過ごせるようにできるものといったら、ウェブサイトを使って“わかりやすい確かな情報”を伝えるということに尽きると思いました。有料老人ホームへ入居を希望する方に、さまざまな情報の中から将来安心して生活できる住まいを探していただきたい。こうして「探しっくす」は誕生したのです。
今後の展望・使命(探しっくすの未来)
「出会うはずのない人と人、人と情報、そして人と施設を結びつける。
それがネットの力」
今でも思い出すと身震いすることがあります。それはちょうど大手企業のシルバー事業部でホームページを作って、数ヶ月経ったときでした。利用者にアンケートを募ったのですが、ただでは答えてくれないだろうと思い、抽選で景品をつけました。懸賞サイトにも登録して、これなら少しぐらい応募があるだろうと期待半分で気長に待つつもりでいました。次の日出社したときは、アンケートのことをほとんど覚えてなかったと思います。メールを開いたとき、とにかく何が起きているのか分からず、一瞬立ちすくんでしまいました。なんと何千件ものメールが、どんどんメールボックスにたまっていったのです。はじめはパソコンが壊れたのか、あるいはウィルスに感染したのかどちらかだと思いました。すべての受信が終わるまでには午前中いっぱいかかるほどでした。
しかし、メールを開いてみると、なんとすべてがアンケートの回答だったのです。正直、背筋がぞっとしました。その時はじめて、インターネットの凄さを思い知らされました。ちなみにその日だけで、アンケートの回答は3000件以上ありました。この日以来、インターネットに魅力を感じるようになりました。
普通に生活していたら絶対に出会うことがなかった人と出会うことができるというのも、インターネットの魅力だと思います。インターネットをキッカケに、新潟の理学療法士の方や九州の大学生など、さまざまな人たちのコミュニケーションがありました。今思い出すと、ひとつのホームページで色々な人と出会うことができたと思います。人と人を結びつけるだけでなく、出会うはずがなかった人と情報、そして人と施設を結びつけることができる唯一の媒体。それがネットだといえるでしょう。
これからもこうしたネットの力を最大限活用して、「世のため人のため」にできることを続けていきたいと思っています。まずは今の有料老人ホーム「探しっくす」を充実させていくことが当面の目標です。世に出して終わりというのではなく、運用していく中で実際に利用者の方や施設の方の話を聞いて、双方どちらとも幸せになれるようにさらにブラッシュアップしていきたいと思っています。有料老人ホームへの最初の入り口を開いたわけですから、その入り口がちゃんとした門構えでしっかり立っていないと皆さんに迷惑をかけてしまいます。出した情報にはやはり責任を持たなくてはならないでしょう。その責任だけは忘れないでやっていきたいと思います。「探しっくす」で検索して入居した利用者に、いい人生を送ることができたと思っていただけたら、こちらとしてはホームページ屋冥利に尽きると思います。
今後の展望としては、多くの人が探すことができなくて困っているニッチな情報を「探しっくす」で提供できるようにしたいです。何かを探すという行為は、インターネットの一番の効用で、欲しい情報がみつかるというのが最大の魅力です。しかし、これだけインターネットが普及していても、現状ではまだ十分に探すことができない情報はたくさんあります。今、世の中にないものや、きちんと整備されていないもの、そして誰かが困っているもの。その中でも大手さんがフォローできない情報の隙間を、「探す」と「尽くす」という意味がこめられた「探しっくす」で埋めて行くことができればと考えています。「探しっくす」は、「世のため人のためにできること」を目指して、これからも皆様のお役に立てるようにどんどん進化していきます。 今なら父親に胸を張っていえると思いますね。私は「世のため人のためになる仕事」を確かにしているのだって。
株式会社ジェイティップス
代表取締役 川口 環


